青いたからもの 第1話
 ある冬枯れの日、ハルカは、森でたからものを拾いました。
 それは小さな青い石で、手のひらに乗せて転がすと、ハルカの心を映すように、様々な色に光りました。
「こんなに美しいものを、私一人で見るのはもったいない。」
 そう思ったハルカは、石を窓辺に置き、外の通りからも見えるようにしました。
 するとしばらくして、あちこちから色んな人が、石を眺めにやって来るようになり、ある日、近所に住む洗濯屋のおかみさんが、
「こんなキレイな石をただで見せて貰ってるから、お礼に…」
 と、手作りのクッキーをたくさん、大きなバスケットに入れて持ってきてくれました。
 そのクッキーのおいしかったこと!
「おいしいけど、とても一人では食べきれない。どうしたらいいかなァ…。」
 ハルカはテーブルの上に置いた、大きなバスケットを見つめ、
「そうだ!」
 と思いついて、そのバスケットも石の隣に移しました。
 すると今度は、週末ごとに石を見に来る、隣町の奥さんが、
「こんなにおいしいクッキーには、香りのいいお茶がなくっちゃ!」
 と、自分の農場で摘んだハーブ茶を、大きな袋に詰め込んで、両手で抱えてやってきました。
 ありがたく受け取ったハルカですが、やはり一人で飲みきれる量ではありません。石を見に来てくれた人に、クッキーと一緒にふるまうことにしたのです。

 またしばらくすると、今度は遠くの町から、この地方ののみの市を目当てにやってきたご婦人が、ハルカの家の前を通りかかり、青く美しい石に目をとめました。
 そして、ふるまわれたクッキーとハーブ茶に驚き、持っていた荷物の中から、明らかにアンティークと分かる、上品な花模様のティーセットを取り出して、テーブルに乗せました。
「今朝、のみの市で買った掘り出し物よ。気に入ったから買っちゃったけど、ほんとは私、そんなにマメじゃないし、お茶を入れるの下手くそなの。ここにあった方がふさわしいと思うから…」
 そう言って、ティーセットを置いて行こうとします。ハルカがあわてて、
「そんな高価なもの…」
 と、断ろうとしますが、
「とことん値切ったから、そんな値段じゃないし、時々おいしいお茶を頂きに来れればいいのよ。」
 と、ご婦人も譲りません。結局そのティーセットは、ハルカの家のキッチンに残されることになりました。
 こうして、ハルカの家では週に何度か、石を囲んだ楽しいお茶会が開かれるようになり、毎日のように訪れる近所の人たちに混じって、となり町やもっと遠方からのお仲間も増え、その輪が少しずつ広がっていきました。
 雪の降った夕べには、音楽隊の一行が立ち寄って、暖炉をとりまき、皆で美しい音色に聴き入ったこともありました。
 お仲間に囲まれておしゃべりに興じる毎日はとても楽しく、石はますます青く、美しく輝くようで、ハルカはとても幸せです。

 そんなある日、いつも来る洗濯屋のおかみさんが、自分もずっと昔、こんな石を拾った覚えがある、と言い出しました。
「私のは緑色で、形もこんなに丸くないし、もっと大きかったと思うけど、時々こんな風に色んな色に光ったのよ。だけど弟と取り合った時、どこかに飛んでって見えなくなって、それっきりなの。」
 おかみさんはいつものように、自分で焼いてきたケーキを皆にふるまい、自分の分をフォークで小さくして、口に運びながら話していました。するとフォークが、何か硬いものに当ったのです。おかみさんが恐る恐るケーキをよけると、淡い緑の角ばった石があらわれました。
「んまーっ、どうしてこんなところに!やっぱり夢じゃなかったんだわ。私のたからものよ!」
 おかみさんは狂喜して、早速だんなや子どもたちに知らせたいといって、そそくさと帰って行きました。
 後に残ったお仲間たちも、何だか急にソワソワしはじめ、そういえば自分も石を拾った覚えがあったとか、誰かにもらったかも知れないとか言い出して、一人またひとりと、自分の石を探しに家に帰ってしまいました。
 ハルカは大きなテーブルにぽつんと独りで座り、先週このテーブルを持って来てくれた、家具屋のおかみさんのことを思い出していました。


つ*づ*く
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