disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第9話)
「全く、パリス君の懐古趣味と来た日にゃ徹底しとるなあ…。」
「そのセリフ何度目だ? 乗るたびに言ってるじゃないかロイズ。」
 何度目かの調査飛行でハーナスを飛び立った直後、いつものようにロイズ氏が、フライヤーの後部座席で古色蒼然たるツマミやスイッチ類を眺め回している時だ。前方にまるで進路を妨害するように数隻の小型船の陰が現れた。
「トム、さっきからセンサーに出てる船って何なんだろ? ちっとも動かないけど。」
「連中の隙間をすり抜けりゃいいさ。」
「待った。トム、針路を変更して、迂回した方がいい。」
「何でだピーター? このシャトルなら充分すり抜けられる距離だけど。」
「アレンが迂回しろと言うなら従った方がいい。何せ予言者みたいな男だからなぁ!」
 ロイズ氏が後ろから身を乗り出すようにしてパリスに声をかけたが、アレンはどこか気に触ったらしく隣で鼻を鳴らし、
「カンが鋭いと言ってくれ、予言者じゃ大袈裟過ぎる。」
 とやり返す。そのうちにシャトルが針路を変えたが、時すでに遅く小型船に先回りされ、気が付けば完全に取り囲まれてしまっていた。進退窮まったフライヤーのコパイロット席で、キムが通信装置のスイッチをひっぱたく。
「こちらはデルタフライヤー。トム・パリスとハリー・キム、“ロストボーイズ”のメンバーだ。そっちの所属も明らかにしてほしい。」
『…そんなことは時間のムダだぞガキども。この声を忘れたとは言わんだろう。』
「ハンク・ディアボロ…。」
 そう呟いたキムの隣で、パリスも表情をこわばらせる。引きつるようなダミ声は、確かに間違いようがなかった。
「まだこの辺りをうろついてたとはなぁ…。」
「どうしよう。トム、何て返事すればいい?」
「とっとと失せろ。」
 それだけ言って肩をすくめてしまったパリスの後ろで、フィルモア人が自席の通信ボタンを不器用にいじり回している。
「…どうやらあんたとは、とんだ腐れ縁のようだな、ハンク。」
『ロイズまで一緒だとはな! あんたそこのガキどもの保護者か何かのつもりなのか?』
「まぁとりあえず、そんなとこだ。」
『出発前に手を引いておくべきだったな。ガキどものシャトルとやらはどうもデザインが目障りで気に食わんのだ。』
「ちょっと待てよハンク。まさか私らを攻撃しようってんじゃ…。」
 もちろん、彼はそのつもりだった。ロイズ氏が言い終わらぬうちに、シャトルは取り囲んだ小型艇からの集中砲火を浴び、大きな衝撃がコクピットを揺さぶる。だが中の人間を蒸し焼きにするほどの怨恨ではなかったらしく、内部の温度はそれほど上がっていない。
 それでもエンジン部分に受けた衝撃は大きく、焼け付いて航行不能に陥ったシャトルがゆっくりと漂い始めると、それを見届けるように数隻の小型艇がいっせいに攻撃を中止し、センサー圏外へと逃れてゆく。
「…トム、どうした?」
 怪我をするほどの事態ではなかったはずだが、なぜかパリスが一人操縦席に突っ伏している。真っ先に気付いたアレンの声に反応し、コパイロット席のキムがその肩に手をかけた。
「いいかげん冗談きついぞトム。」
 それでもパリスは動かない。
「意識を失ってる? どこか打ったのかな…。」
 アレンが後ろから医療キットを投げてよこし、中から引っぱり出したトリコーダーでトムの身体をスキャンしながらキムは首をかしげる。
「おかしいな。どこも何ともないみたいだけど…。」
「呼吸と脈は?」
 そう尋ねたアレンが心配そうに自席を離れて移動して来たので、答えようと後ろを向いたキムと鼻が触れそうになった。
「安定してます。ほとんど眠ってるのと同じ状態みたいで…。」
「さしあたって生命の心配はないか。となると救難信号が先だな。どのスイッチだ?」
「済みません、トムの右肘の下あたりに…。」
「おっとこれか。トム、ちょっと失礼。」
 彼らにとっては、ハーナスを飛び立った直後だったことが幸運だった。救難船が程なく到着し、シャトルを収納すると港に引き返してくれたのだ。
 パリスも翌朝には何事もなく目を覚ましたが、焼け焦げたエンジンだけは修理に数日はかかりそうだった。


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