disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(最終話)
「トム、トム目を覚ませ! 起きてくれよ!」
 耳元で響くハリー・キムの声に何とか薄目を開けたパリスだが、頭が重くてどうしても持ち上がらない。
「ちょっと待った、血が出てるみたいだ。動かない方がいいよ!」
 言いながら足音が遠ざかったと思うとすぐ戻って来て、医療用トリコーダーと再生装置の動作音が続いた。
「これでどう? ちょっとは楽になった?」
 キムの声に励まされてゆっくり頭を持ち上げると、どうにか起き上がれそうだと分かりパリスはそのまま身を起こした。
「ずい分ハデにぶつけたみたいだけど、ドクターのご高説通りの石頭で、ほんとに良かったよ。」
「…ドクターが? 俺を石頭だって?」
「この間、そう聞いたんだけど…。」
「全く。お前の耳に入ったんじゃ、今ごろ全クルーが俺を石頭だと信じてるんだろうな。ヴォイジャーに帰りたいんだか何だか、分かんなくなってきたぞ。」
「なーんちゃって、もう遅いよ。センサー表示が正しければ、僕ら元のデルタ象限の方の暗黒星雲の入口あたりに戻ってるみたいだから。」
「うまく行ったか。だけどやっぱり、エンジンがイカレたな。」
「例の稲妻をモロに食らって飛ばされたからしょうがないね。救難信号はさっき送っておいたけど、ヴォイジャーまで届いてるかどうか…。」
「今は待つしかないか。」
 パリスの言葉と、通信機から流れ出す空電音とが同時だった。2人とも、弾かれたように通信機を振り返る。
『…ジェインウェイよりデルタフライヤー。トム、ハリー聞こえてる? 救難信号を受信したわ。今向かってるところだから待機して。』
 懐かしい艦長の声に感極まったパリスは天井を仰ぎ、キムは即座に返信ボタンをひっぱたく。
「こちらデルタフライヤー。艦長のお声が聞けてうれしいです! トムも無事ですが、石頭のお陰でまた助かったとドクターに伝えてほしいとのことで…。」
「ハリー! 誰がそんなこと言えって…?」
 空電音のあとからブリッジクルーの笑い声が届き、2人はしばし、互いに顔を見合わせた。
「これでロストボーイズは、正式に解散だな。」
「淋しいこと言うなよトム! ホロデッキにラウンジバー再現すれば、まだまだ遊べるじゃないか!」
「俺としたことが、その手を忘れてたとはね!」
 思わず口の端をひん曲げたパリスに、キムも微笑を返す。
「やっと笑ったな、トム。ミディならきっと、元気にやってるよ。」
 パリスは思わず、真剣な表情になってキムを見返した。
「…そう言えばお前の方こそ、本気で彼女に惚れてたんじゃないのか、ハリー? どうやって気持ちに折り合いつけたんだ?」
 ハリー・キムは肩を竦める。
「それがさ…。本気で惚れてたのかどうか、実は自分でもよく分かってないんだ。今思えば彼女の気持ちがどこにあったのか、最初から分かってた気がするし。だって彼女、肝心な時はいつも君を、君だけを一心に見つめてて…僕なんて眼中に入ってないんだって、何度か思い知らされたから…。だからたぶん、彼女に惚れたって言うより、君が羨ましくて張り合ってただけのような気が、今思えばするんだよね…。」
 パリスはゆっくりと、キムの瞳から視線をはずした。
「コソコソしちまって悪かった。」
「トム、もういいって。エムパスの彼女じゃしょうがないし。それより僕は、君の出した答えに感動しちゃって…。向こうの宇宙もこっちの宇宙も、同じ一つの世界なんだ…って。」
 パリスは長い息を吐く。
「…そうとでも思わなきゃ、とても彼女を置いて来れなかっただけさ。」
 キムがどう答えたらよいか考えあぐねていると、フライヤーの窓にさっと一瞬、青白いワープライトが射し込んだ。
 そしてほどなく、優美なヴォイジャーの船影が窓外に迫ってくる。
「きっとしばらくは、虹色のワープライトが懐かしいね、トム。」
「いいや、ハリー。俺はシンプルなブルーの方が好きなんだと、今分かったよ。」


エピローグ

 その後ミディ・キャルがハーナスのラウンジバーに戻ることは二度となかった。
 彼女もあのままトム・パリスを追って星雲に飛び込んだのだという噂が立ったが、数年後、アレンとロイズ氏はローズと名乗るシーサリア人歌手の存在を風の便りに聞くことになる。
 アンドロメダから遠く離れた辺境銀河の酒場を巡り、懐かしい地球のスタンダードを歌って好評だというのだ。さっそく彼女の写った画像を手に入れた2人は、マネージャーのフランキー氏に渡し、歌手として雇ってほしいと頼み込んだ。
 今そのマネージャー氏は、彼女との交渉のため辺境銀河に滞在中だ。
 アレンとロイズ氏は、大人になったミディに再会する日を心待ちにしている。

- 終 わ り -
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