disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第3話)
 翌朝先に目覚めたのはハリー・キムの方で、熱の取れたスッキリした表情で辺りを見回しているところへ、
「やあ、ハリー。具合はどうだい?」
 といいながら2つのカフェ・オ・レのマグを載せたトレイを手にしたアレンが入ってくる。
「頂いた薬が効いたみたいで、すっかり元通りですよ。」
「そりゃ良かった。」
 キムにつられてアレンも笑顔になり、マグを渡すとちらりとパリスの様子を見る。
「飲み終わったら友達を起こして、ロイズのオフィスに来てくれないか? 皆で朝メしにしよう。」
「すみません、すっかりお世話になって…。」
「トムにも言ったが、面倒なら連れて来てないよ。素直にありがとうって言ってくれりゃ充分さ。」
「ほんとに、ありがとうございます。」
「“ございます”がよけいだがまぁ合格だ。君は素直ないい奴みたいだな、彼と違って。」
「…あの、トムが何か?」
 キムの深刻な表情にアレンは吹き出しそうになり、背を向けてやり過ごすと、
「なに、腹が減ったら素直に食えってことだよ。」
 と言ってみる。キムが苦笑いしたので、パリスの天邪鬼はいつものことらしいと合点がいった。
「それじゃ、ロイズのオフィスはこの突き当たりだから。」

 パリスとキムが応接室を出てロイズ氏のオフィスに入ると、部屋いっぱいに珈琲の香りが溢れ、懐かしさで2人はしばし呆然と立ち尽くした。
「全く、コーヒーってシロモノと来ちゃ、愛飲する奴の気が知れん!」
 フィルモア人のダミ声で我に返って中に進むと、テーブル代わりのロイズ氏のデスクに、トーストや卵とベーコンの皿を見つけた2人は思わず歓声を上げた。
「僕たちアンドロメダ星雲にいるって聞いたけど、地球の食べ物がよく手に入るものですねぇ!」
 ハリー・キムがそう言いながら先ずコーヒーを口にした後、早速トーストにかぶりついて目を丸くした。
「特にこのハーナスは、アンドロメダ市民と言ってもビジネス絡みで住み着いた地球人が一番多いところだからな。需要があるのさ。」
 透明なガラスを思わせる素材のカップに注がれた、赤黒いドロリとした液体をロイズ氏に手渡しながらアレンが答える。
「おまけにこのアレンと来た日にゃ、アンドロメダ一の料理人と言われる男だからなぁ!」
「スクランブルエッグなんて、料理のうちに入らんさ。それに申し訳ないが、ベーコンは本物の肉じゃ…。」
「俺たちも合成肉しか食ったことないからご心配なく。それに、卵料理にこそ料理の真髄があるって聞いたことない? このフワフワ感と塩加減、たまんないよ。お代わり出来ると最高なんだけどなぁ。」
 ほぼ2口で卵とベーコンを平らげてしまったパリスが、空っぽの皿を持ち上げると、アレンがすかさず受け取って、
「取ってくるよ。」
 と応じる。ハリー・キムが慌てて立ち上がり、
「あっあの、僕も欲しいのでトムのも一緒に取って来ます。アレンさんはどうか座ってお食事を…。」
「ピーターだよ。どうもフライパンごと持って来てもらった方がいいみたいだな。俺のオフィスのテーブルの上、出てすぐ左の扉だから。」
「相変わらず、いい子ちゃんだよなハリー!」
 パリスのこの一言には、明らかに皮肉が込められていたが、キムは無視することに決め、キツイ一瞥を返しただけで出て行った。
 さすがのフィルモア人も2人の間に流れる空気を察知して表情から笑みが消え、しばしの気まずい沈黙の後、とうとうアレンがパリスに声をかける。
「なぁトム。1人で自分を責めてないで、ハリーとちゃんと話せよ。」
 パリスは頑に、首を横に振るだけだ。
「話してどうなる? それにハリーもハリーだ。正面切って俺を責めてくれりゃ、言い訳するチャンスもあるのに…。」
「なあ、ハリーはいい子ちゃんじゃなくて、ほんとにいい奴なんだろ? 友達を失いたくなかったら、言い訳がましくても自分の気持ちを伝えろよ。」
「そういうあんたは、素直に伝えたことあんのかよ?」
「ぶ、ぶわっはっはっはっは!」
 見透かしたような、パリスの上目づかいの視線に射られてアレンが顔色を失い、巨大な銅鑼の音のようなロイズ氏の笑い声にフライパンを抱えたままのキムが戸口で固まっている。
「やあ、どうもご苦労さん。」
 トム・パリスがそんなキムの肩をポンと叩き、フライパンを引き取った。


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