disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第5話)
 その日は午後から、アレンが2人を宇宙港見物に連れ出してくれ、会場に浮かぶ幾つもの巨大なプラットホームの壮観を満喫してオフィスに戻ると、オレンジ色の西日に染まったロイズ社長がデスクの端末にかがみ込んでいた。
「あれっ、ロイズ。今日は休むんじゃなかったか? てっきりマリアンのとこにしけ込んでると思ってたが…。」
「ああ、そのつもりだったが、向こうが都合が悪いんだとさ。急に暇になったからちょっと調べ物をな。」
「何か事前調査が必要な仕事があったのか?」
「ホレ、トムが暗黒星雲でシャトルがどうとか言ってたろ?」 「H2+イオンの組成の多い…って奴か? 調べてみようとは、俺も思ってたが。」
「それそれ。あんた達が貨物船に拾われて、あのバーでとっ捕まるまでのだいたいの日数も計算に入れて、そのあたりの距離にある暗黒星雲を検索してみたんだ。けっこうヒットしてるから、面白いことになりそうだぞ。」
「あの…わざわざ調べて下さってたんですか? 僕らが遊んでる間に…。」
「ま、奴は確かに、フィルモア人にしちゃ変人の部類だがな。どうせこの顛末をネタにして一儲け企んでるはずだから、割り引いて感動しといた方がいいな、ハリー。」
「おいおいアレン、企んでるとはひどいぞ。当然の権利だろうが!」
「おっしゃる通りですよロイズ社長。それで、ヒットした暗黒星雲には調査に行くんですよね?」
 フィルモア人はアレンの軽口に本気で憤慨した様子はなかったが、それでもパリスのフォローに感謝のウィンクを寄こした。
「さすがトムはパイロットだけあって話が早い。出来れば君たちのシャトルも探し出して、そいつで回った方がいいと思うんだが…。」
「そっちの方は俺に任せてくれ、ロイズ。貨物船の積荷だったら港の倉庫に保管されてるはずだから、それほど時間はかからんさ。」
「あの…もちろん僕たちもお手伝いします!…だよね、トム?」
 慌てて声を上げたキムと顔を見合わせ、パリスも頷く。
「気持ちは有難いが、君たちはこの世界に不案内だからな…。大人しくしてた方がいいと思わないか?」
「そうそう。このオフィスを軽く掃除でもしてもらえば、後はゆっくりしてくれて構わんよ。」
 不承不承に頷く2人だが、もちろん納得してはいない。
「…といったところで腹が減ったな、アレン。日も暮れたことだし、そろそろ解禁と行くか?」
 ロイズ社長の言葉に、アレンの瞳が少年のように煌く。
「もちろんお供するよロイズ。ただこの2人には、いやな思い出の場所かも知れないが…。」
「俺たちだって構いませんよ。例のバーに行くんでしょ? あそこのシチュー、絶品だったもん!」
 パリスの言葉に勢いよく頷くキムの様子を眺め、この2人ならどこに飛ばされようと生きて行けそうだと、アレンは思い始めていた。

 絶品のシチューをあっという間に、舐めるように平らげてしまったパリスを尻目に、ハリー・キムはスプーンをゆっくりと口に運ぶ。そうしながら、広大なラウンジ・バーをサンゴ礁に群がる熱帯魚のように泳ぎ回るウェイター達を眺めていた。
「ここって人手、足りてるのかなぁ…?」
 隣に座っているパリスがかろうじて聞き取れる呟きだったので、向かいの席のアレン達には気付かれなかったが、パリスにはキムの考えがすぐに読めた。
「俺たちをとっ捕まえたここのマネージャー、フランキーって言ったっけ。地球人みたいだったよな。声かけてみようか?」
「そうだね。雇ってもらえれば、こういうお金だって自分で払えるようになるんだし。」
「んじゃ、今夜はもう遅いから、明日の昼にでも出直そう。」
「ヒソヒソ声で何の相談だ? お2人さん。」
 アレンの声に、ハリー・キムが飛び上がる。
「うわっ、ええと、このあたりで女を買うにはどうしたらいいのかって、トムが…。」
「…なっ! バラす奴があるかよ、ハリー!」
 パリスが半ば本気で背中をどついたので、キム少尉は激しくむせるハメになった。


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