disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第11話)
 “ロストボーイズ”の2人がツアーに招ばれたのは、その二週間ほど後のことで、最初のコンサート会場が惑星ハーナスの海上アリーナだったこともあり、アレンとロイズ氏を招待することが出来た。
 とうとうライヴの初日を迎えたパリスとキムは、何もかもがきらめく虹色のオーロラのような、忘れられない一夜を過ごすことになる。

 幕が上がって3曲目までは、2人とも舞い上がってしまい頭が真っ白だった。だが3曲目を終えたところでステージ後方のキムに向かってパリスが合図を送り、インターバルを取って
「僕たちロストボーイズです。今夜は来てくれてありがとう。」
 と通りいっぺんの挨拶を述べた瞬間、化学変化が起こった。
 思いもよらぬ大きな拍手と歓声が湧き上がり、ステージの2人は驚きとともに喜びで上気した笑顔を交し合う。その後は全てが、夢の中の出来事のように過ぎていった。
 もちろん、まだ無名だった彼らは当初前座の扱いだった訳だが、初日から2度のアンコールの後も拍手が鳴り止まない状況が続き、メイン・アクトのベテラン女性歌手がヘソを曲げて楽屋に引き篭る事態にまで至ったのだ。
 その後も会場を移るたびにロストボーイズを求める客が増え続けたので、6日目の夜にはハルカワCEOからの指令が届き、今後はダブル・アクトとして、彼らにもメイン・アクトと同等の演奏時間が与えられることになった。
 そして3週間後の、ツアー最終日。
 会場が再びハーナスの海上アリーナだったため、その夜はほとんど、彼らの凱旋公演の様相を呈することになる。
 のっけから自分達の演奏も聞きづらくなるほどの歓声に迎えられ、例によって3曲目のあとのインターバルでパリスがゆっくりとオーディエンスを見渡すと、最前列に見慣れた2人、アレンとロイズ氏の姿を認め、その隣では何とミディ・キャルがほほ笑んでいる。
 そのオレンジの瞳に吸い込まれるようにパリスが腕を伸ばすと、彼女の方も全く躊躇なくその腕を取り、気付けば同じステージに立っていた。
 そしてこの日、3人で披露したのがラウンジバーでも好評だったPPM風アレンジの“風に吹かれて”。
 広いアリーナ会場はいつしか大合唱に包まれ、10万人近い人々の歌声が惑星ハーナスの海を越えてきらきらしい夜景にこだまする。えも言われぬ一体感に満たされた人々の中で、ステージの3人もミディを真ん中にしっかりと手を握り合っていた。

 その夜は結局ラストまで3人で歌い続け、揃ってステージを降り楽屋の入り口まで引き上げたところで、ミディが実は観客だったことを全員が同時に思い出す。そこで、彼女とはその場でいったん別れることになった。
「出口分かるよね? 今来た通路を戻れば観客席にも通じてるから。」
「大丈夫よ。今日はホントに、信じられないくらい素晴らしかったわ。ありがとう、ハリー。」
「全く、トムが君を引っぱり上げた時は正直どうしようかと思ったんだけどね。それじゃ、僕らの部屋は隣のホテルの最上階だから。今夜は打ち上げで戻れるの明け方になっちゃうだろうけど、2、3日泊まってるからまた遊びにおいでよ。」
「そうね、明日ならちょうどお休みもらってるし、行けるかも知れない。それじゃあ、トムもありがとう、また明日ね!」
「ああ、また明日…。」
 ミディの明るい声につられ、思わず振り返ったパリスは彼女の瞳をまともに見返してしまった。慌てて目を逸らしたが間に合わず、何かの奔流が脳にどっと流れ込む。たまらずフラフラと後退した彼の背をとっさに伸ばされたキムの腕が支えてくれた。
「どうしたんだよトム、大丈夫か?」
「朝からずっと立ちっ放しで疲れたんだよ。俺が一番年寄りなんだから仕方ないだろ!」
 パリスの思わぬ剣幕にキムが戸惑っている間に、2人に謎の笑みを残してミディが通路に消える。どうにか自分の椅子に辿り着き、座ったのはいいが顔を上げようとさえしない友人に溜め息をつくと、キムはシャワーを浴びに行った。

 真夜中近くに始まったその夜の打ち上げも大盛況で、キムが一人で隣の建物のホテルの部屋に戻る頃には空が明るくなり始めていた。
 超多忙なハルカワCEOなどはさすがに会場を一巡しただけで風のように去っていったが、ラウンジバーのパウエルオーナーが常連客をゾロゾロ引き連れて現れたり、人の出入りが激しかったせいでパリスの姿が早くから見えなくなっていたことに、キムも含めて誰も気付かないままだった。


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