disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第13話)
『お願いよトム。私を愛してると言って…。』
 頭の中で何かが弾けるような少女のキス。その瞳はオレンジの深淵。
 エムパスなら、言わなくたって分かってるはずだろ?
『自分の未来だけは見通せない…。こんな気持ちになるなんて…。』
 深淵から湧き出る血の涙。

「トム、どうした? 目を覚ませ、トム!」
 一気に視界が開けたと思うと、目の前に気遣わしげなブルーの瞳があった。
「…ピーター? 何でここに…?」
「ハリーが知らせてくれたんだ。君が高熱を出してるから、様子を見てほしいと頼まれた。」
 アレンがパリスに清潔なタオルを手渡しながら答える。受け取って初めて、自分の身体が汗まみれなことにパリスは気がついた。
「それでハリーは? まだ戻らないってことか…。」
 窓の外には夕闇が迫っている。
「ああ、ご本人は成り行きで記者たちと夕食も共にすることになったから、遅くまで戻れないと言ってたぞ。」
「全く俺としたことが、ハリー一人に記者たちの接待まで押し付けちまったとは…。」
「トム、ひょっとしてゆうべ…ミディに会ったのか?」
 ―沈黙。
「…どうやら図星か。それで、彼女に迫られたんだろ? 伴侶となることを受け入れたのか?」
 パリスは驚いて身を起こす。
 (軽いめまいで、アレンに肩を支えてもらう羽目にはなったが…。)
「まさか…! そんなこと出来るわけない! 俺もハリーも、早晩元の世界に戻るんだし…。」
「まさかトム、そう言って断わったんじゃないだろうな?」
「他にどう言えばよかったんだ?」
「…なるほど。君の高熱の原因が分かったよ。シーサリア人に思いをモロにぶつけられて、無事に済む地球人はまずいない。それでミディは? 断わられて、大人しく引き下がったのか?」
「あんまり大人しくもなかったけど…。仕方ないさ。俺にもどうしようもないことなんだし…。」
「どうもその様子じゃ、肝心なことを彼女は何も伝えなかったみたいだな…。」
 アレンの奥歯に物の挟まったような言い方が、パリスの気に触った。
「何だよそれ? あんたシーサリア人に詳しいみたいだけど、惚れられたことでもあるのか?」
 言いながら、興奮したパリスが再び身体を起こしかけたので、アレンもその肩に手をかけてベッドに押し戻す。
「ずっと昔に一度だけな。話してやりたいけど、その様子じゃ君はまだ熱が高い。さっきはうなされてたもんで起こしちまったが、また眠れるようなら今は休む方がよくないか?」
「そうかも…知れないな…。」
 アレンの静かで、押し付けがましくない語り口と、肩に置かれた手のぬくもりで、パリスは既にゆったりとした眠りの世界に引き戻され始めていた。
「ハリーが戻るまではここにいる。安心して眠っとけ。」

 数日後、すっかり快復したパリスとキムの2人がロイズ氏のオフィスに戻る頃には、ロストボーイズは当代きっての人気グループになっていた。
 暗黒星雲への調査も再開されたため、ラウンジバーでの演奏は週に一度、金曜の夜に限定されることになったが、毎回店内に入り切れないほどの客が集まってくる。
 ミディ・キャルは店には出ていたが、以前のようにステージに上がることはもうしなくなり、客から請われるととたんに機嫌を損ね、厨房に引っ込んでしまうようになっていた。
 そんな中飛び立った何度目かの調査飛行で、彼らはついに、目指す暗黒星雲と巡り会うことになる。


≪前頁へ  ≪目次へ戻≫  次頁へ≫

(C)森 羅 2009- All rights reserved