disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第14話)
「さすがにハリー君が艦隊切ってのパイロットだと太鼓判を押すだけあるなぁ。もう自分の手足みたいにこなしてるじゃないか、パリス君。」
「そりゃ、僕らの時代より700年近くも時代の進んだメカですからね。正直デルタフライヤーより、よっぽど操縦しやすいですよ。」
「君たちが帰り道を探してるんじゃなきゃ、コパイロット共々うちで雇いたいくらいだよ。なぁ、ロイズ。」
「全くだ!」
 以前デルタフライヤーを飛ばして襲われたことが教訓となり、以降はロイズ氏が調査用の小型船を手配してくれることになった。デルタフライヤーはいつでも飛び立てる状態に整備され、センサー機能のみ船と連動させた状態で船内格納庫に収まっている。
「トム、そろそろ今度の暗黒星雲の座標に着くよ。センサーに反応があった。」
「OKハリー、ワープ解除!」
 パリスの操作で船が通常空間に戻る瞬間、前方から現れた虹色の亜空間航跡が一瞬船体を包み込み、一気に後方に流れ去ってゆく。
「ワ〜オ! 何度見てもいいもんですねぇ、この世界のワープライト。まるでオーロラが追いかけて来るみたいだ。」
「ほんとに。僕らの世界の、ただ青白いだけの光が味気なく見えるよな、トム。」
「こっちとしては、そのシンプルな青白い光の方を見てみたい気もするがな。」
 アレンの言葉に操縦席の2人が笑顔で応じているうちに、雲のように流れる暗黒物質が目の前に迫って来た。
 その暗黒物質の最も濃くなる中心部分に目を凝らすと、無数の青白い光の糸が、放電現象のようにひっきりなしに現れては消えている。
「なぁハリー、どうもどっかで見たような景色って気がするんだけど単なる偶然か? 組成は一致してないかな?」
「センサーの表示が正しけりゃ、フライヤーに残ってる記録と完全に一致してるよ。」
「…やっと帰れるのかもな、俺たち。」
 パリスが遠雷のように光が交錯する中心部分を見つめたまま、低い声で呟く。
「僕は何だか、複雑な心境だけどね…。」
 後方センサーの確認をしていたアレンもやって来て、ハリーが見つめるセンサーパネルをひょいと覗き込んだ。
「こっちでも確認中だが、間違いなさそうか? ハリー…」
「あの光の帯みたいなやつがぶつかって来て、衝撃で飛ばされたのをはっきり覚えてます。だからあの光の組成さえ記録と一致すれば…。」
「…つまり突入して調べる価値は充分、ってわけか。行けるか? トム。」
「もちろん!」
 直後にパリスは船体を大きくバンクさせ、青白い光の走る暗闇の中心部にまっしぐらに飛び込んでゆく。
 とたんに前後左右から衝撃波が襲い、小型船が小刻みに揺さぶられた。
「ここまで来れば分析可能だよな? 光の組成はどうだ、ハリー?」
 衝撃波に煽られて失速しないよう、針路を巧みに変更しながらパリスが叫ぶ。
「タキオンやクロノトンの微妙な割合まで完全に一致してる。今度こそ本物だ!」
「やったなハリー! 悪いけどピーター、ここから操縦を代わってくれないか? シャトルの準備をしなきゃ…。」
 驚いたキムが、パリスの顔を穴の開くほど見つめてわめく。
「待てよトム! まさか今すぐ、シャトルでおさらばしちゃうつもりなのか?」
 パリスの方も、驚いたような顔でキムを見つめ返した。
「当たり前だろ! 何のためにシャトルを積んで来たと思う? それじゃ、ピーター…。」
 そう言って立ち上がりかけたパリスの袖を引っぱって、キムが無理やり引き戻す。
「待てったら! ロストボーイズはどうなるんだよ? 明日は金曜なんだぞ。せめてパウエルさんの店で、ラストライヴくらいやらなきゃ。それに世話になった人だって、アレンさんたちだけじゃない。僕らを買ってくれたハルカワCEOにだって、スジを通さないと絶対後悔することになるよ。」
 ハリー・キムの真っ直ぐな視線を避けることも出来ず、パリスは操縦席に沈み込んで大きな溜め息をついた。
「分かってるさ。ロストボーイズでは考えもしなかった体験させてもらったんだから、ちゃんと別れの挨拶をするのが当然だろうと俺も思う。ただそうなると、ミディにも会わなきゃならないってのが、何となく怖い気がしてさ…。」
 ミディの名が出るとハリーも唇を引き結び、理解のしるしに一つ頷いただけで何も言おうとしなかった。


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