disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第15話)
 ハーナスに戻る途中の話し合いで、2人の出発は土曜の朝と決まってしまった。
 宇宙港に降りた頃には暗くなり始めていたので、疲れのあったキムは早く休みたいと言って一足先にロイズ氏のオフィスに戻った。パリスも(恐らくキム以上に)疲れてはいたが、応接室で彼と2人きりになるのが気詰まりで、港の格納庫に一人で残りシャトルの最終チェックを始めていた。
 分厚い扉が開く音がしたのでパリスは驚き、半分開いたシャトルのドアから首だけ出して誰が来たのか確かめる。
「何だ、トム。ほんとにまだここにいたのか。ハリーに聞いたときはまさかと思ったが。」
「ピーターこそ、こんな時間にどうしたんだ?」
「シーサリア人の謎について、話す約束になってただろ? なかなかチャンスがなかったし、明日は最後の夜になりそうだから今夜のうちにと思ってな。」
 言いながらゆっくりとシャトルに近付き、後方エンジン部分の装甲に手を触れる。
「まだ焦げ跡が残ってるんだな。」
 パリスは身を屈めてシャトルから滑り出ると、アレンと並んで立ち、シャトルに背中を預けた。
「実はきれいに落とさないことに決めたんだ。ハリーとも話し合って、この世界に飛ばされた証拠を残しておくことになってさ。」
「…その気持ち、分かるような気がするよ。」
「それで、あんたの初恋のシーサリア人って?」
「初恋なんて言ったか?」
「あんたの年で“ずっと昔”ってことは、そーいうことだろ?」
「…どうやら君は、パイロットとしてだけでなく、別の分野の経験も豊富らしいな。」
「君ほどじゃないと思うけどね。」
「で、そのシーサリア人だが。実はそもそも、仕事上の先輩の婚約者でな。俺も若かったから、一目惚れしちまったわけだ。全くシーサリア人って人種は、少女のように無垢な顔して…」
「…ゾクゾクするほどコケティッシュ。」
 パリスがあとを引き取ると、アレンも口の端をひん曲げ、互いにウィンクを交し合う。
「彼女の方も同じ思いだと分かったのが、出会ってしばらくして先輩に食事に誘われた時だった。向かいに座った彼女が俺をじっと見つめてるのに気付いて、俺も見つめ返しちまったんだ。とたんに頭の中に彼女の声が響いた。今夜待ってる…って。
 もちろん後ろめたさはあったが、言われた場所が帰り道だったんで通りがかったら、彼女が一人で待っていた。結局それから何度も、先輩の目を盗んで逢瀬を重ねるハメになるんだが、ある時彼女が、会えるのもこれで最後かも知れないと言い出した。何と先輩が次の仕事の取材先に紛争地域を選んで、彼女も連れて行きたがってるというんだ。ひょっとして、先輩が彼女と俺の様子に気付いて彼女を試してるんじゃないかと俺は疑った。
 彼女は俺に、自分をと一緒に逃げてほしいと言ってきたが…俺には先輩を裏切ることがどうしても出来なかったんだ。
 煮え切らない返事で誤魔化そうとした俺を彼女は見限ったようで…結局先輩と共に旅立って戦闘に巻き込まれ、2人とも帰らぬ人になっちまった…。
 ラウンジバーの常連客から、シーサリア人の伴侶についての話を聞かされたのはその少し後のことでな。もっと早く知ってればと思いもしたが、今考えると知ったところで結果は変わらなかっただろう。
 つまりシーサリア人ってのは、心から愛し合える本当の伴侶に巡り会えない限り、身体の機能が衰えて、大人になる前に死んでしまうのだそうだ。」
 すぐ隣でパリスが息を飲むかすかな音が聞こえる。アレンはかまわず先を続けた。
「先輩がこの話を知ってたかどうかは分からない。だが俺の煮え切らない態度のせいで2人が死んだことだけは確かだ。君に同じような思いを味わってほしくない。シーサリア人のあの声は、思いの通じ合ってる者にしか伝わらないはずなんだから。だから明日の夜までに、ミディと何とか話をつけろ。彼女の場合、大人になるまでにまだチャンスがありそうだからな…。」
 話し終えるとアレンはじっと目を伏せた。パリスもしばらく格納庫の床を睨んでいたが、ふと目を上げてアレンの横顔を見つめる。
「あのさピーター。結局彼女自身にだって、君の先輩を裏切れなかったってことだろ? 煮え切らなかったのは君だけじゃない、お互い様だったんじゃないかなぁ…。」
 アレンもふと、目線を上げてパリスを見た。よく似た青い瞳がぶつかり、お互いの深遠に同じ哀しみが湛えられていることを知るのに、それほど時間はかからなかった。
「とにかく帰るまでに一度は、ミディと話してみることにするよ。ご忠告ありがとう。」
「どういたしまして。ところで整備に問題はないんだろ? 明日に備えていい加減休んだらどうだとも、言いたかったんだけどね。」
「確かにそうだ、お互いにね。」

 2人が去ったあとの格納庫は、暗闇と静けさに閉ざされた。


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