disclaimer: トムやハリーや他のヴォイジャーのキャラクターはパラマウントのものです。この小説には著作権侵害の意図はありません。個人的に楽しんでいるだけです。
Warp Light -虹の航跡-(第17話)
 ロストボーイズの2人がロイズ氏の手配した小型船でハーナスを旅立ったのは、翌土曜の昼近くになってからだった。
 代表取材のマスメディアのシャトルも同時刻に飛び立ち、暗黒星雲突入まで追いかけることになっている。
 久し振りに身に着ける宇宙艦隊の制服を、互いにからかったりしながらも旅は順調で、翌日には暗黒星雲まで1パーセクの距離に迫り、2人の乗ったデルタフライヤーがついに格納庫から飛び立った。
 フライヤーは小型船の周りを大きく旋回し、別れを惜しむようにその前方でしばし停止する。
「ロイズ社長、ピーター、ほんとにお世話になりました。何も恩返し出来ないので、ロストボーイズの権利関係をお2人とハルカワCEOにお譲りします。今までありがとうございました!」
 とパリスが言えば、キムも続けて、
「ラウンジバーのオーナーや、雇って下さったマネージャー、ファンの皆さんもありがとう。決して忘れません!」
 するとロイズ氏の小型艇から、空電音と共に返事が返ってくる。
『ヴォイジャーに戻ったらお仲間によろしくな!』
『もし、向こうの状況が変わってて上手く行かんようなことがあれば、いつでも大歓迎だから戻って来るんだぞ!』
『またエンギでもないこと言うなよロイズ! これから故郷に帰るって時に…。』
『こりゃすまん、ついつい本音がなぁ…。』
 アレンとロイズ氏の珍妙なやり取りも、もちろんアンドロメダ中に中継されてしまった。
 ところが2人のシャトルがゆっくりと向きを変え、暗黒星雲に針路を定めたその時、彼らの行く手を塞ぐように、数隻の小型艇が忽然と現れた。
「トム、また小型艇が数隻、センサーに反応だ。」
「全く、アンドロメダ中に中継されるからって、ここまでオールスターで出揃ってくれなくてもいいのに…。」
『そいつは気の毒だったなガキども。だがこのディアボロに恥をかかせて逃げおおせようなんて思わんことだな。生きて戻りたきゃ、ここでオトシマエつけてもらおうか。』
 シャトルの2人は、困ったような表情で顔を見合わせた。
「…オトシマエって何だろ?」
「さあな、ハリー。たぶんヤクザ映画の見過ぎじゃないか?」
 などとノンキに構えているうちに、小型艇からのビーム砲に襲われる。パリスの巧みな回避行動も、多勢に一隻ではどうにもならない。それでも相変らず、2人を蒸し焼きにするつもりはないらしく、シャトルの船内温度にはほとんど変化がなかった。
「船体外壁の温度はどれくらいだ、ハリー? エンジン、保ちそうか?」
 衝撃波に揺られながら、パリスが大声で尋ねる。
「船体温度上昇中…あれっ? 一気に下がっちゃった! トム、何でだか分かんないけど、あの真ん中の船からのビーム以外はほとんど効力がないみたいなんだ。」
「…ってことは、1隻分のビームだけ避けりゃいいワケだな?」
 パリスは勇躍、古臭い操縦桿を握り締めるとシャトルを大きく反転させる。ディアボロの小型艇たちは隊列を組んだまま向きを変えようとするなど、不自然な動きを見せる。
「どうもよく分からないねトム。わざわざ出て来て…僕らを本気で抹殺したいわけじゃないなら、放っといてくれればもうすぐこの世界からは消えるのに…。」
「きっとどっちでもないからだよ、ハリー。」
 パリスが遠くを見るような、不思議な眼をして答える。
「…どういうこと?」
「悪いがハリー、いったん操縦を代わってくれるか?」
「いいけど…。何する気なんだ?」
 パイロット席を離れたパリスは、そのまま後部の転送パッドに向かう。
「合図するから、俺をあの真ん中の船に転送して欲しいんだ。」
「なっ…。そんなの無茶だ!」
「頼むよハリー、どうしても行かなきゃならないんだ!」
「だったら僕も一緒に行くって。」
「こっちは上官だぞハリー、命令に従えよ!」
「君が今さら上官気取るとはね…。第一こっちの世界には宇宙艦隊なんて存在してないんだろ?」
「あー…。だからさ、ハリー…。」
 途方に暮れたパリスが両手で頭をかきむしっていると…
『大丈夫だハリー。トムの言う通りにしてやれ。』
 空電音と共に通信装置から割り込んで来たのはアレンの声だ。
「だけどアレンさん、ハンク・ディアボロの船にトムを一人で送り込むなんて…!」
『トムの安全は俺が保証出来る。ハリー頼むよ。チャンスは今しかないんだ…!』
 キムはそれでもしばらく躊躇していたが、決然としたパリスの表情を見ると転送ボタンに手をかけた。


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